裁判員裁判:「予断防げ」検察官、弁護士ら事前の攻防

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090731k0000e040080000c.html


全国初の裁判員裁判が8月3日、東京地裁で始まる。裁判員制度では、公判に先立って裁判官、検察官、 弁護人が話し合い、争点や証拠を絞り込んで審理計画を立てるが、その過程は非公開で具体的な議論は明らかにされない。さいたま地裁(大谷吉史裁判長)で9 月8~11日に公判が開かれる強盗傷害事件を通して、「裁判員裁判が始まるまで」を追った。【武本光政、松本光央】

 ◇第1回協議

 「被告の席は配慮してもらいたい」。6月4日午後、さいたま地裁の評議室で、被告のフィリピン国籍の男(20)の弁護人が切り出した。裁判官、検察官、弁護人が初めて集まった場だった。被告は2日前に起訴された。

 初公判前に裁判の進め方を話し合う公判前整理手続きをスムーズに進めるため、しばしば、こうした実務的な打ち合わせ(進行協議)が行われる。

 これまで被告は、弁護人席の前や傍聴席の前の椅子に座った。弁護側は、裁判員に被告が犯人との予断を与えかねず、被告との意思疎通もしにくいとの懸念から、自分の隣に座るよう求めた。だが、地裁は方針を決めていなかったため、態度を明らかにしなかった。

 この日の協議では、公判前整理手続きを7月14日に開くことや、公判日程も早々に固めた。地裁には早めに法廷を確保したいとの考えがあったようだ。

 ◇第2回協議

 今回は、全国で初めて通訳が必要な裁判員裁判となる。6月30日の2回目の進行協議で地裁は、タガログ語の通訳を2人に打診していると説明した。従来は1人が一般的だったが、裁判員裁判は公判が連日開かれ、負担が大きいからだ。

 検察側が起訴内容を立証するのに使う証拠のコピーを弁護側は6月17日に入手。30日、裁判長は弁護側に次回協議までに主張を明らかにするよう求めた。弁護側の要請に沿って、被告を弁護人席の左隣に座らせる考えも明らかにした。

 ◇第3回以降

 7月6日、3回目の進行協議。弁護側は起訴内容を争わない方針を書面で明示。争点は量刑に絞られた。6、8、9日の3日間の協議では、どういう証拠や証人を採用するか議論が展開された。

 「裁判員へのインパクトが強すぎる」。9日の最後の進行協議。あごを骨折した被害者のレントゲン写真を巡り、弁護人が異議を申し立てた。事件の悲 惨さを印象付けるためか、検察側は頭蓋骨(ずがいこつ)を含め顔全体の写真の証拠採用を求めた。弁護側には、少しでも印象を和らげたい思惑がのぞく。地裁 は裁判員に配慮する形で、骨折した部分だけの写真を採用したようだ。

 弁護側は、被告を支える人間が身近にいることを示すため、親族らを情状証人として申請し認められた。事件の構図を明らかにするため、共謀したとされる少年らを法廷で尋問することも合意した。

 14日の公判前整理手続きは約1時間20分にわたり、争点や証拠が正式に確認され、公判日程が確定した。

 ◇事件の起訴内容

 当時19歳だった被告は別の少年2人と共謀、08年12月19日深夜、さいたま市の路上で通行人を殴って、あごの骨折などの重傷を負わせ、現金約 3万円やノートパソコンなどを奪ったとされる。同26日未明には埼玉県戸田市の路上で通行人に軽傷を負わせ、現金約7000円などを奪ったとされる。

毎日新聞 2009年7月31日 15時00分

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