比少年 仲間が支え 不良グループ摘発

比少年 仲間が支え 不良グループ摘発  ~底流~
言葉の壁 乏しい支援態勢
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/saitama/news/20090925-OYT8T01230.htm

 戸田、川口市などで事件を繰り返すフィリピン人不良グループの摘発が今春以降続いている。逮捕・補導された関係者は10人。さいたま地裁で行われた裁判員裁判で、強盗傷害罪に問われた被告(20)もメンバーだった。今年上半期に摘発された外国人少年36人のうち、半数はフィリピン人だ。彼らを犯罪に向かわせるものは何か。(宗村元)

 「俺、逮捕されるかもしれない」。川口市に住む高校2年の女子生徒(16)は、フィリピン人の少年(19)から打ち明けられていた。6月から交際していた。

 8歳で来日。不慣れな日本語や外見の違いから、学校ではひどいいじめを受けた。生徒は少年からそんな生い立ちを聞かされていた。

 少年には、切り離せない二つの心の支えがあったという。大好きなバスケットボール、同郷の不良仲間。中学3年になった頃から、蕨市や川口市の公園で毎晩のように仲間とバスケにのめり込んだ。「泥棒やろうぜ」。大切な仲間からの誘いは断れなかったという。



逮捕された少年らが事件を起こしたとされる、さいたま市内の現場。日中でも人通りは少なく、脇には注意書きの看板も  8月19日、少年は生徒の目の前で逮捕された。

     ■□□

 県警が、万引きや路上強盗を繰り返すフィリピン人不良グループとみている「DC(ドロボー・クルー)ブラッド(血)」。逮捕された少年もメンバーだった。

 グループによる強盗傷害事件は昨年12月以降、さいたま市や戸田市、川口市で続発。少年は仲間2人と男性3人を襲撃し、顔面骨折など3週間~1か月の重傷を負わせ、現金などを奪った容疑がかかっていた。

 「動機はディスコなどでの遊ぶ金ほしさ。武器こそ使わないが加減を知らない。被害者が動かなくなるまで、2~3人で徹底的に暴行する」。捜査関係者が分析するグループの傾向だ。執拗(しつよう)な暴行について、少年らは「顔を見られて外国人とばれたくなかった」などと供述しているという。

   □■□

 さいたま地裁で今月8~11日に行われた裁判員裁判。懲役5年の実刑判決を受けたフィリピン人被告(20)(事件当時19歳)もメンバーとされる。公判では、若い在日外国人が抱える問題も浮き彫りになった。14歳で来日した被告はこう証言した。「日本語がわからず高校に行けなかった。言葉のわかる同郷の不良少年らとつるむようになった」「グループを抜けようとしたら殴られた」「仲間の家を出たら行き先がない」

 蕨市塚越に拠点を置く在日フィリピン人の支援団体「KAFIN」代表、長瀬アガリンさん(46)の携帯電話にも、県内各地のフィリピン人から「息子を不良グループから抜けさせたい」といった相談が1日10件ほど寄せられる。長瀬さんは「外国人ということで近所付き合いが難しく、少年らはどうしても悪いグループに頼ってしまう」と言う。

     □□■

 県国際課によると、県内の未成年外国人は昨年末現在、1万6186人で10年前から約1・5倍に増加。在日フィリピン人は1万6631人と、10年間で5700人余り増加している。

 県国際交流協会によると、県内にあるフィリピン人の支援・協力団体はKAFINを含め2団体しかない。

 双方とも日本語通訳や国際交流イベント開催などが主な活動内容。子どもたちの非行などについて相談を受けても、親にアドバイスをする以上の行動までは踏み込めない。「彼らに言葉や文化を教え、相談に乗ってあげるような場を、地域や学校に設けてほしい」。長瀬さんは訴える。

 25日深夜、川口市のある公園をのぞいた。バスケをしたり、語り合ったりする十数人の姿。外国人の少年たちだ。DCブラッドもかつてここをたまり場にしていた。「バスケと仲間。俺たちはここでたまるしかないんだ」。フィリピン人の少年(18)は苦笑いしていた。

(2009年9月26日 読売新聞)

コメント