法廷通訳人は、登録された候補者名簿から裁判所が選び、事件ごとに依頼する。大阪高裁管内に居住する通訳人は45言語、約650人。証人尋問などは話した直後に訳す逐次通訳を行い、冒頭陳述や論告、判決など書面の朗読の際は事前に訳しておいて同時に読み上げる手法がとられてきた。
しかし、口頭主義の裁判員裁判では、要点のみを記した書面が主流になるとみられ、判決も決定後すぐ言い渡される。このため、ほとんどが事前準備なしの逐次通訳になる可能性があり、通訳人の負担は一気に増えると予想されている。
また、これまでの通訳対象裁判は1日2時間程度だったが、裁判員裁判では1日5時間以上、数日間の連日開廷になる。疲労のあまり、誤訳があれば裁判員の心証に影響し、事実認定や量刑をゆるがす可能性も指摘されている。
http://www.sankei-kansai.com/2009/06/09/20090609-010887.php
実際、昨年行われた韓国人の被告の模擬裁判では、検察側と弁護側が通訳人を無視して異議の応酬を繰り広げる場面があった。通訳人を務めた丁海玉さん(49)は「今までの経験が全く通用せず、疲れ方も比べものにならなかった。1人の通訳人では絶対無理だと感じた」と訴える。
待遇面の不透明さも通訳人の不安に拍車をかける。
通訳人について定めた法律はなく、報酬も「裁判長の判断」(大阪高裁)というのが現状。報酬を振り込まれて初めて金額が分かるという。
ある通訳人は「裁判所に要望などをすれば次から選んでもらえなくなる」と打ち明ける。大阪大学グローバルコラボレーションセンターの津田守教授(司法通訳翻訳論)は「通訳人の立場は弱く、一層の配慮を求めたい。裁判所だけでなく、検察官や弁護人、裁判員にも通訳人のことを理解してほしい」と話す。
大阪弁護士会は今後、通訳人に関する課題をまとめ、裁判所に要望書を提出する方針。同会は「このまま始まればうまくいかない可能性が高い。きっちりとした制度化が必要だ」と指摘している。
大阪では裁判員制度がスタートした5月21日以降、中国人やドイツ人など計4人が裁判員裁判対象の覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)罪で起訴されている。
(2009年6月 9日 14:10)
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