裁判員裁判で法廷通訳人に負担増…8日に外国人被告初審理

2009.9.6 22:24
このニュースのトピックス:強盗事件
外国人が被告となる裁判員裁判を想定した模擬裁判=昨年10月、東京地裁

 さいたま地裁で8日、初めて外国人被告の裁判員裁判が開かれる。審理は連日行われ、判決は11日の予定。通訳を介し審理時間が倍増することによる裁判員の負担や集中審理による通訳の負担、通訳のニュアンスが裁判員の心証にどのような影響を与えるかが注目される。
 審理されるのはフィリピン人の元少年(20)が昨年12月、知人2人と共謀し路上で通行人を殴り現金などを奪ったとされる2件の強盗致傷事件。
 裁判員裁判では「法廷通訳人」の負担増が懸念される。法廷通訳は専門用語が多く、書面の翻訳など事前準備が欠かせないが、集中審理の裁判員裁判では準備期間が短い。法廷で通訳する量も増える上、裁判員に分かりやすい通訳が求められる。
  
不安抱く通訳人
 千葉地裁で10年以上、スペイン語の通訳人を務めるAさん。ほかに本業を持つため、公判前日の夜遅くまで通訳の準備作業に追われることもある。大事件ともなれば終日法廷が開かれ、「体力的にきつく、神経も疲れる」と漏らす。
 裁判員裁判では、書面ではなく口頭のやり取りが重視されるため、証人尋問や被告人質問などの時間が増え、法廷で通訳する量も大幅に増加する。だが、通常の裁判では通訳人は1人。Aさんは事件が複雑で被告も複数なら「1人では対応できない部分が出てくる」と語る。
 最高裁によると、平成19年に全国の地裁や簡裁で判決を受けた外国人被告で通訳人がついたのは37言語5767人。最高裁は「裁判員裁判でも円滑に確保できる」と自信を見せる。
  
人材不足も
 しかし、金城学院大学の水野真木子教授(司法通訳論)は「今後、通訳人個人のレベルを上げていかないと裁判員裁判に対応できる人材は不足する」と危惧(きぐ)する。「模擬裁判では通訳人の能力によって裁判員が抱く認識や印象は違った。訳し方によって判断が大きく変わる」といい、全体的なレベル向上が急務とみる。


 一方、日本弁護士連合会法廷通訳問題に取り組む児玉晃一弁護士は「集中力が持続するかが問題。国際会議では通訳の負担を考えて30分に1回は交代している」と終日続く集中審理の問題点を指摘する。
 従来は後日作成される速記録などで通訳された内容を確認できていたが、裁判員裁判は原則連日行われるため、それが不可能になる。児玉弁護士は「これまで以上にミスが許されない」と話す。
  
複数配置、研修制度
 通訳人への負担増が懸念されていることを受け、従来は一つの裁判に通訳人1人が一般的だったところを、最高裁は場合に応じて通訳人を複数とする方針を示している。
 実際、今回のさいたま地裁の公判では地裁が「負担が大きい」と判断し、2人が配置される。2人は主尋問と反対尋問で交代するなど、役割分担するという。
 水野教授は複数制を歓迎しながらも、「2人の能力の差が大きければ、通訳内容にずれが生じ、整合性が取れなくなる」と“不安要素”も挙げる。
 日本は法廷通訳人の資格認定制度が未整備なことから、水野教授は「少なくとも研修制度をつくって通訳人が最低限の訓練を受けられるようにすることが重要だ。裁判員裁判に向けた通訳人の特別な養成プログラムが必要」と提案している。

 ◆法廷通訳人◆ 
日本語を理解できない外国人被告らに法廷でのやり取りを通訳する。全国の通訳人候補者の情報が記載された名簿から、事件ごとに裁判所が選ぶ。候補者となるために資格は必要ないが、語学検定や通訳経験などが参考にされる。全国の通訳人候補者名簿に登録されているのは今年4月現在で延べ4066人。約50言語に対応できる。最高裁によると、裁判員裁判対象事件でみると、昨年は2324件のうち124件で法廷通訳人がついた。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090906/trl0909062227004-n1.htm

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