裁判員法廷@さいたま タガログ語主張通訳

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2009年09月09日



◇県内2例目



 県内2例目の裁判員裁判が8日、さいたま地裁で始まった。対象は、19歳の時に通行人を暴行して金を奪ったなどとして、強盗致傷罪に問われたフィリピン国籍の男性被告(20)の事件。裁判員裁判としては全国で初めて、法廷に通訳が入った。この日選任された裁判員は、地裁側から少年法の理念も含めた説明を受け、法廷では日本語とタガログ語で展開される検察側と弁護側の主張に耳を傾けた。




◇少年法理念説明も



 裁判員に選ばれたのは女性が4人と男性が2人。補充裁判員は2人とも男性だった。


 被告は昨年12月、少年2人と共謀し、さいたま市と戸田市の路上で通行人を殴ってけがをさせ、現金などを奪ったとされる2件の強盗致傷事件で起訴された。起訴内容を認めており、刑の重さが争点となる。


 公判は午後1時半に開廷。法壇に向かって左手前に、タガログ語の女性通訳人2人が並んで座った。



 被告は、右耳にイヤホンを付け、ワイヤレスマイクを通じて通訳人の声が聞こえるようになっていたが、日本語の日常会話は可能。大谷吉史裁判長から名前や生年月日などを尋ねられると、通訳人が訳しても日本語で返答。起訴内容について、裁判長から「間違いありませんか」と聞かれると、通訳後に日本語で「間違いないです。すみませんでした」と答え、一礼した。



 冒頭陳述と検察側による証拠内容の説明では、事前に書面を渡されていた通訳人が、検察官や弁護人の説明と同時に通訳を進めた。



 冒頭陳述で、検察側は3人がかりで計画的に通行人を襲ったことなどを指摘。弁護側は、両親に育てられた時期が短かった被告の生い立ちに言及した。裁判員はメモをとりながら耳を傾けた。



 この日は、少年法の理念から、共犯の少年の氏名や顔など、プライバシーに関する情報は大型モニターに映さない配慮がされたが、共犯の少年と見られる顔写真が映し出される操作ミスもあった。



 9日以降は、証人尋問や被告人質問があり、裁判員からの質問も想定される。地裁は裁判員に対し、通訳が質問を訳し終えてから次の発言をするよう求めたという。




◇「2人、適切」「ストレスに」


 通訳のあり方に関心をもつ人たちも傍聴に訪れた。



 タガログ語と英語の法廷通訳をしている大阪大学の津田守教授(司法通訳翻訳論)は「通訳人2人が周到に準備をしている様子で、適切な通訳をしていた」と評価。「2人がチームを組む際に、どのように準備をしたかに関心がある」と話していた。



 法廷通訳経験者のフランス人のロビノ・グラジエラさん(44)は「日本語も分かる被告にとって、日本語とタガログ語が同時に聞こえるとストレスになるだろう。逐次通訳の方が良かったのでは」。



◇「完璧ではない」「簡略化心配」

 地裁によると、被告が外国籍の場合は、最高裁が作った通訳人候補者名簿などを参考に、原則として通訳人をつける。昨年に地裁が判決を言い渡した裁判員裁判対象事件106件のうち、通訳がついたのは5件。英語2件と、インドネシア語、ベトナム語、タイ語が1件ずつだった。

 法廷通訳の経験が豊富な神戸女学院大学の長尾ひろみ教授は「(書面を入手して翻訳するなどの)準備が難しい被告人質問や裁判員の質問で、通訳人の力が問われる」と指摘。



 「裁判員には『通訳人は完璧(かんぺき)ではない』と理解してほしい。かみ合わない答えが返ってきたら、別の角度から質問し直すぐらいの気持ちでいてほしい」と話す。



 埼玉弁護士会で外国人人権センター運営委員長を務める小林哲彦弁護士は、審理へのしわ寄せを懸念する。



 「裁判員裁判は全体の日程を最初に決める。通訳が入ると審理が長くなるということで、必要な審理が簡略化されないかが心配だ」

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