クローズアップぐんま:裁判員制度、期待と不安交錯 県内、対象で10人起訴 /群馬

http://mainichi.jp/area/gunma/news/20090919ddlk10040131000c.html

 ◇開始4カ月、全国で13件
 国民が裁判員として刑事裁判に参加する裁判員制度がスタートして約4カ月。東京や埼玉、青森など、すでに全国各地で13件の裁判が開かれた。県内でも制度の対象事件で10人が起訴され、裁判開始に向けて公判前整理手続きが進んでいる。期待と不安の交錯する法曹関係者らの声や、これまでの裁判で浮上した課題を追った。【鳥井真平】

 ◇地裁「一般市民に身近に」/弁護側「感情のブレ」に懸念
 「裁判員として国民が裁判に参加する場面を見て、司法が一般市民にとってより身近なものになってきていると感じた」。前橋地裁の岡田雄一所長は、これまでに行われた裁判員裁判について、こう感想を語った。

 最高裁によると、8月3~6日に東京地裁で行われた第1号裁判を皮切りに、すでに全国で13件の裁判員裁判が実施された。前橋地検の荒木俊夫検事正は「裁判員が、よく考えて判決を導き出しているという印象を持った」、群馬弁護士会の鈴木克昌会長は「多くの人が真剣に、積極的に取り組んでいることに、期待を感じた」と述べ、県内の法曹三者はいずれも前向きに評価している。

 ただ、これまでの裁判員裁判で示された「裁判員の量刑の判断」に関しては、検察側と弁護側の感想には、ズレもみられる。

 鈴木会長は、全国で初めて性犯罪を裁いた裁判(青森地裁)と、初めて覚せい剤密輸事件を裁いた裁判(大阪地裁)を例に挙げ「性犯罪のように、被害者が非常に強い処罰感情を持つ場合は量刑が重くなり、密輸のように被害者がはっきりしない犯罪では軽くなる傾向がある」と分析。「裁判員は従来の『量刑の相場』にとらわれず判断しているという印象だ。法廷で裁判員の心証を損ねれば、被告の権利を守れない可能性もある」と、裁判員の「感情のブレ」に懸念を示す。

 荒木検事正は「量刑にばらつきがあるのは確か」とした上で「特に想定外の判決が出ているという印象はない。法廷で分かりやすさを追究することが重要だ」と自信をみせる。

 一方、裁判員候補者からは不安の声も聞かれる。制度スタート以前は「積極的に協力してみたい」と話していた前橋市の女性会社員(23)は「実際に始まってみると、裁判に出る勇気がなくなってきた。断る理由もないし、呼び出しがあれば裁判所に行くしかないが、できれば裁判員に当たらないでほしい」と揺れる気持ちを明かした。

 ◇短い審理時間も課題
 これまでに各地で行われた裁判員裁判は、大きなトラブルもなく、まずは順調な滑り出しとなった。しかし、懸念される課題もいくつか浮上している。

 一つは審理時間の短さ。前橋地裁の岡田所長は「審理時間は、公判前整理手続きで争点整理がしっかりなされており問題ない」と話す。これに対し、弁護士会の鈴木会長は「事前の手続きで消化不良に終われば、3日間で被告人を弁護しきれるか」と心配する。

 最高裁は裁判員裁判の約7割が3日間で終わり、一部が4日間で終わると広報している。裁判員の負担を考慮した結果だが、裁判員経験者からは「複雑な事件や死刑が絡む事件だと4日間では日数が少ない」などの感想も出ている。

 また、暴力団関係者の裁判では、裁判員の安全確保が課題となる。関係者から裁判員が危害を加えられる危険があると判断し、さいたま地検が裁判官だけの公判とするよう裁判所に求める「除外請求」を検討している例などもある。

 前橋地裁では、銃刀法違反(発射)罪で暴力団関係者が起訴されている。岡田所長は「前橋スナック乱射事件の刑事、民事裁判を行った経験を生かしたい」と話しており、金属探知機で傍聴者のボディーチェックを行うほか、県警に警備協力を求めることなどを検討している。判決後、日常生活に戻った裁判員の警備などにも注意を払うという。

 性犯罪事件で被害者のプライバシーをどのように守るかも難しい課題だ。前橋地裁では強姦(ごうかん)傷害事件の裁判員裁判が控える。先例となった青森地裁での裁判は、被害者が別室からモニター越しに意見陳述する「ビデオリンク」方式を採用した。前橋地裁も同様の方針だ。

 しかし、それ以前に「どこまで踏み込んだ立証を行うかも検討課題だ」(前橋地検の荒木検事正)。青森の裁判では、検察官の冒頭陳述などについて、判決後に裁判員から「犯行過程が詳しく語られ衝撃だった」などの意見が出ている。

 その他、外国人が被告人となった場合、通訳人の負担を軽減することでより正確な内容が裁判員に伝わるよう、複数の通訳人を確保することなど、日系ブラジル人をはじめ多くの外国人が住む群馬ならではの検討課題も浮上している。

 最高裁によると、全国の地検が起訴した裁判員裁判の対象事件は541件(9月4日現在)。岡田所長は「裁判員裁判はこれからどんどん増える。課題も出てくると思うが、市民感覚が生かされた裁判になっていってほしい」と期待を込める。

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 ◇県内の裁判員裁判対象事件の起訴◇
    罪名        被告

 (1)銃刀法違反(発射) 出口大輔被告※

 (2)銃刀法違反(発射) 小林卓司被告

 (3)強盗傷害      中野浩被告※

 (4)傷害致死      斉藤高業被告※

 (5)強姦傷害      福村翔太被告

 (6)強盗傷害      大槻良久被告

 (7)傷害致死      長嶋直子被告

 (8)傷害致死      清水三樹男被告

 (9)傷害致死      清野篤司被告

(10)傷害致死      松本千佳被告

 (注)※は事前に裁判の争点を決める公判前整理手続き中。(1)と(2)、(7)~(10)は同じ事件での起訴。

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